未知の魅力で
まちなかを元気に
ALL芽室食材で作るクラフトビールや町全体を巻き込んだ壮大な道の駅プロジェクトなど、独自の着想で芽室町をプロデュースする
まちなか応援隊は芽室町役場のメインストリートプログラム「まちなか再生」プロジェクトに合わせて発足しました。
メインストリートプログラムとは、都市を取り巻く社会環境の変化に起因する「まちなか衰退」を解決するため編み出されたアメリカ発の地域再生手法で、日本を含む世界の先進都市3,000エリアに広がっています。
メインストリートプログラムは「経済活力、デザイン、プロモーション、組織」の4つのアプローチから構成されており、全体的にバランスよくアプローチしていく事で、地域力の底上げを図るものです。
歴史を辿れば人々が暮らし育む中で、社寺、駅、商店などが拠点となり道ができ、都市骨格(メインストリート)が作られてきました。この都市の歴史的骨格は地域の人々にとって馴染み深いものであることから「郷土愛(パブリックマインド)」を育みやすく、ここに活力を吹き込む事でまちの個性や魅力を高めていく事ができます。
まず、このプログラムを成功させためには地域の人々個人が町の魅力に目を向け「自分たちで町を再生させよう」という自発的な発想から行動を起こすことが鍵となります。そしてプロジェクトの実践を通じて得た成功体験は人々の心に根本的な変化をもたらし、やがてイノベーションを引き起こしていきます。しかしあくまでこれは方法論であり、実際は地道な活動と小さな成果の積み上げであり、手段は地域の特性に合わて落とし込んだものでなければ成り立ちません。まずは役場と水平的な立場でパートナーシップを組み、協働関係にあたる民間チームの存在が必須となります。
まちなか応援隊の発足は、役場の商工課から芽室町のメインストリートプログラムである「まちなか再生」のコミュニティベースとなり協働してくれる住民を集めてほしいという依頼がきっかけでした。
これを機として芽室町を盛り上げたい有志者が集まり、世代交代などがありながら現在10名の理事を組織構成としたNPO法人の立ち上げまでに発展しました。
こうしてNPO法人芽室まちなか応援隊が始動し、芽室町は農業が盛んな町なので、まずは農業を核とした町おこしをしようと、駅前イベントを企画し開催。以降、自立・自走する組織として、数々のイベントや、独自のまちなか再生プロジェクトを進行させています。
芽室の農産物は、伊勢の赤福やサザエ食品の小豆、都内有名ベーカリーの小麦などの原材料に使用されており、十勝野菜は食品業界や飲食業界で高品質なブランド品と認知されていますが、ほとんどの住民が知りません。住民が地元野菜の魅力を発見し、美味しく食べられる場を作ろうと、定期的に食のイベントを開催しています。
例えば雪の中で越冬し熟成させる「雪室じゃがいも」も芽室町で生産されており、驚くほど糖度が高く甘いのが特徴です。これを住民参加型で食のイベントにしようと「野菜のタイムカプセル」として駅前に冷凍庫を設置しイベント告知しました。徐々に糖度が増し美味しくなっていく経過を身近で感じてもらおうと、積雪が始まった頃に雪とじゃがいもを冷凍庫に詰めて越冬させ、当日はバーベキューにして提供しました。また、地元農家のMEMURO PEANUTSが生産しているピーナツを使うメニューを取り揃えて「ピーナツフェス」を開催したり、芽室産の新鮮野菜を取り扱っている店舗に「芽室野菜ヌーボー」の証明書を発行したりしています。現在参加店舗は10店舗で、店舗間でスタンプラリーを実施するなど、住民が地元野菜の魅力を発見し、楽しみながら食べていただけるよう企画しています。
芽室町は帯広からJRで20分という好立地である一方で、ひとたび駅前から賑わいが失われれば、メリットは一転して合併の危機が紙一重にあるといいます。
まちなか応援隊の存在意義は、まちなかが経済的にも精神的にも満ち足りて潤い、元気になる事。そのためには団体を存続させる必要があり、一定の資金力が不可欠です。イベントは地域活性化において重要な役割を果たしますが、収益を上げる事はできません。地域のために活動し続けるためには事業を広げて収益を得る必要があります。
以前より芽室に訪れて街づくりのアドバイスをしてくださっている弘前大学の先生から、全国各地で地方創生に関わっている先生をご紹介いただきお話を伺うことになりました。そこで芽室町と似たような立地、名古屋市内から少し離れたベットタウンエリアの商店街がクラフトビールを製造・販売しており、就労支援の受け入れをするなど地域貢献をしながら収益も上げているというお話を聞きました。
芽室の特徴といえば「食」。特徴を最大限に活かし、芽室町産のじゃがいもやブロッコリー、ピーナツなどをフレバーにして、ホップも芽室町産、ゆくゆくは麦芽も芽室町で生産して、クラフトビールを作ろうという話になり、プロジェクトが始動しました。
委託で製造したクラフトビールを販売している業者さんは多くいますが、私たちの熱い思いをぶつけるためには、原材料だけでなく工場も芽室になければ意味がありません。ブルワリーをつくるためにはどんな設備にいくら投資し、どんな申請が必要なのか、1から調べる作業が始まりました。並行して資金集めのため、札幌の財団が毎年出している補助金に申請を出した所、ありがたくも熱量が伝わり、採択を得ることができました。しかし名古屋の商店街のようなブルワリーを作るためには50分の1程の資金にしかなりません。
今の身の丈から始めることはできないか、調べていくうちにお一人で醸造しているブルワリーのオーナーもいるという事が分かってきました。まずは視察をさせてもらおうと計画し、きっかけとなった名古屋の視察を必須として、近郊の小規模ブルワリーを視察させてもらうことにしました。この出会いが後に希望をもたらすことになります。
岐阜県の小規模ブルワリーを視察させてもらうと、醸造法は石見式で、休みや有休を利用しながら副業で製造していると言います。石見式醸造法とは島根県の石見麦酒さんが構築した醸造手法で古典的な醸造法と比較すると圧倒的にコスト、労力、作業時間の削減効果が得られる、ごく小規模から始めたいブルワリーに最適な醸造手法だといいます。石見式の設備なら、今の資金では足りないが何とかならない額ではない、前向きな兆しが見えてきました。また、石見式醸造法なら1回に330mlの瓶ビール300本位が作れる規模で、本業のかたわら活動しているまちなか応援隊メンバーにとってはフットワークが軽くちょうど良い、無理なくやり遂げられる規模感と手作り感、まさに理想的な手法でした。
石見麦酒さんは石見式醸造法を学びたい人には惜しみなく指導してくれる度量の広いブルワリーで、弟子に入る人も多くいるといいます。まちなか応援隊メンバーからも弟子入りを検討したところ、札幌に石見式で醸造している澄川醸造さんというブルワリーがあることを聞きます。
地元に戻り早速アポイントを申し入れたところ、澄川醸造さんから快諾いただきお話を伺える事になりました。その後、幸甚にも継続的な指導を賜り、芽室産クラフトビール誕生へ向けて歯車が回り始めます。
芽室町産クラフトビールのブランド名は「ALLE MEMURO(エールメムロ)」。「ALLE(エール)」は、まちなか応援隊の役目である、応援の「エール(※カタカナ読み)」、原材料全て芽室町産を目指して、すべての「ALL」、ビールの「ALE」を組み合わせた造語です。そこに「MEMURO」の魅力を詰めたクラフトビールを開発していく、という熱い思いをぶつけたネーミングになっています。
そして現在地は、酒造免許申請書類を提出して半年がたったところ。想像以上に酒造免許の審査が厳しく、澄川醸造さんの後ろ盾を得ながらも2年の月日を要したといいます。
今は澄川醸造さんに委託して、いずれ自分たちで作る「味」で試作品を製造してもらい、飲食店やホテルに配りながら営業しています。現在用意しているのは2種類で、定番のアーバンエールに芽室町産のピーナツを使った「メムピール」はローストピーナツを香りづけがくせになる独特な味わいだそう。
製造が始まれば、自分だけの「味」を作りたいビール愛好家や、引き出物や贈り物にオリジナルビールを作りたい個人、また販促として活用したい法人を対象に小ロットで委託を受けることも可能ですし、ブルワー体験をして1か月後に自分で作ったビールが届くというような体験型プランも可能です。まちなか応援隊は、まちなかに人通りを増やす仕組みを作ることが役割。ツールの一つとして始めたクラフトビールですが「ALLE MEMURO(エールメムロ)」で芽室町がブランド化する可能性だって大いにあり得る、夢のある事業だと思っています。
道の駅の多くは主要道路や交通の量が多い幹線道路にありますが、まちなか応援隊が考える道の駅は違います。人の流れを主要道路から商店街へ導くのが「道の駅」の役割だと考えています。
そこで今取り組んでいるのが「未知(道)の駅」プロジェクトです。芽室町の特徴は町の端から端までが徒歩10分、圏内にはイタリアン、フレンチのレストランやパン屋さん、地元のスーパーやデパート、小売店、おみやげ店も揃っている、コンパクトでありながら多様な店舗が現存しています。
『まず道の駅をどこに置くか、町の中心にあるJR芽室駅周辺に構えるのが妥当だが、陳列できる品数には限りがあるし、道の駅だけ売り上げても意味がない。既存の店が平等に潤うためには、歩いて暮らせるコンパクトな町の特徴を活かして、駅舎の限られたスペースにのぼりとMAPのみを設置し、MAPを頼りに歩いてお店を回ってもらったらどうか。この方法なら今まで素通りしていたJRの乗客へ向けて告知することも可能になり、ふらっと寄って買い物や飲食を楽しむことが可能になる。』
入り口は「日本一小さい道の駅」だけど取り扱いアイテムは未知数の「未知の駅」。人の往来が増えれば、視点が変わり町も人も変わる、誰かが描いた町ではなく、自分たちが描いて切り開いてゆく町でありたいと思います。
さらに町を抜けると、日高山脈が一望できるビュースポットや、広大な田畑が広がる自然豊かな風景が広がります。雄大な自然を肌で感じながらのウォーキングもおすすめです。観光物産協会や商工会などを巻き込み、将来的にはレンタサイクルやループの導入も検討しています。これによりフットワークが軽くなり、まち全体をアクティビティとして楽しんでもらう事ができるようになります。まずは急務である「未知の駅」プロジェクト実現に向けて取り組みを進めています。